「数あるサプリメントの中で、何を選んだら良いのか?」その選択基準の一つになるのが、「エビデンス(科学的根拠)があるのか?」です。ではこの「科学的根拠」とは具体的にどういうものなのでしょう。

科学的根拠とは?

がんの予防法・治療法の情報は日々さまざまな場所から発信されていますの で、その発信された情報の質を見極める必要があります。情報源としては学会 や論文などによる研究発表が引用されることがありますが、研究の方法によっ て、その結果の信頼性にはさまざまなレベルのものがあることを知っておく必 要があります。科学的に評価されたといっても、実際には、あやふやなものか ら確かなものまでが混在しているのです。それを見分ける客観的な目安のひと つが、研究方法(研究デザイン)です。どのように研究が行われたかによっ て、科学的根拠の信頼度を知ることができるのです。

 

次に、それぞれの研究方法の具体的な内容を簡単に説明します。

 

ランダム化(無作為化)比較試験

対象者をランダム(無作為) に2群に分け、一方にはこれ までの従来の治療法(標準治 療)、他方には新規に開発さ れた治療法を行い、治療の効 果を比べる方法です(※標準 治療の代わりに、効果のない 偽薬・プラセボを用いる場合 もありますが、近年は倫理的 な問題から偽薬・プラセボは 用いないことが多くなってい ます)。対象者をランダムに 振り分けることによって、そ の治療法の効果を純粋に検証 することができます。そのた め病気の治療法の評価方法として、研究結果の信頼性は、一番高いとされています。しかし研究の実施には多額 の費用と長い観察期間が必要なため、このデザインの研究を行うのは簡単ではあり ません。また、補完代替医療の領域においては、標準治療や偽薬・プラセボの設定 が困難な場合が多く(例;鍼灸・整骨療法・マッサージなど)補完代替医療の科学 的検証の際の問題点とされています。

なお、病院で処方される医薬品(抗がん剤など)は、基本的にはこのランダム化 比較試験を行って有効性が認められたものです。ですから次に説明する研究方法の 結果は、がんの治療方法の選択においては、参考程度に留める必要があります。

 

非ランダム化(非無作為化)比較試験

ランダム化(無作為化)比較試験と異なり、対象者を振り分ける時にランダム化 (無作為化)を行いません。そのため、結果の信頼性はランダム化(無作為化)比 較試験に比べてやや劣るとされています。

コホート研究

ある集団に対して、数年から十数年の追跡調査を行って病気の発生を確認し、病 気の原因となる可能性のある要因(喫煙・飲酒などの生活習慣、食生活、血液デー タなど)との関連性を調べます。 病気の原因となる可能性のある要因を最初に調査しておいて、その後の追跡調査 で病気の発生との関連性を調べる「前向きコホート研究」と、要因を過去にさかの ぼって事後的(後ろ向き)に調査して、その後の追跡調査で病気の発生との関連性 を調べる「後ろ向きコホート研究」の2種類があります。  おもに、がんなどの病気の予防に関する研究方法になります。

 

症例対照研究

すでに病気になった人(症例)と年齢や性別などの因子をそろえた人(対照)を 選び、病気の原因と考えられる要因を過去にさかのぼって調査し、両者を比較する 方法です。 結果が早く分かるという利点がありますが、適切な対照(健康な人など)の設定 が難しく、また過去のことを思い出してもらうため、研究結果に色々なかたよりが 入り込む可能性があります。

 

症例報告

病気に対してある診断法、治療法などが有効であった一人もしくは複数の症例に 関して、カルテに記録された情報(血液検査・画像検査など)を整理して報告した ものです。その後、類似の病態を示した患者さんの診断・治療の情報源として役立 てられています。ですが、症例報告で得られる情報からは、患者さんに対して、ど れくらいの確率でどれくらいの効果があるかを判断することはできません。しかも 症例報告の場合、偶然起きた現象を過大に評価してしまう可能性があります。  例えば、がんは、数万例に1例の割合で自然に消失することが、過去の調査で分 かっています。そのため、がんが消えたのは、その治療法が本当に効果があったの か、それとも単なる自然経過なのか判断が難しくなります。 もちろん、症例報告が契機となって新しい治療法が発見されることもありますの で、貴重な情報であることに変わりはありませんが、情報の取捨選択にあたっては 慎重な判断が求められます。

 

実験室の研究

動物(マウス・ラット)や培養細胞を使った実験です。薬の開発において、作用 機序、安全性や有効性などさまざまな情報を調べるのに重要な研究です。  しかし、この研究方法による結果が、ヒトの病気でそのまま当てはまるわけでは ないという点に注意しなければなりません。  例えば、薬の候補として発見された物質が、実際に病院で使われる薬(医薬品) になる確率は、およそ2万個に1個(約0.005%)といわれています。 ですから、動物実験や細胞実験の結果は、薬になる前の段階の情報であることを 理解し、新聞やテレビなどで報道されていた場合でも、鵜呑みにしてはいけないと いうことを知っておいてください。

 

経験談・権威者の意見

データの裏付けのない、主観に基づく意見です。これらは結果の信頼性が一番低 いのですが、普段、皆さんが耳にしたり目にしたりする機会が多いのは、この経験 談や権威者の意見でしょう。このタイプの話題は具体的で説得力があるように感じ るかもしれませんが、実際には科学的根拠に基づかない主観的な意見のことが多い ので、冷静に対応する必要があります。なお、経験談と症例報告はまったく異なる ものですので、注意してください。  また、大学教授などの権威者や人気テレビ司会者などの意見も、どのような研究 方法によって導き出された結果に基づいた発言なのかを見極める必要があります。

 

[具体的事例 ①|経験談]

『がんに効く!驚異の○○○』  昨年、胃がんと診断され、手術もできず、余命半年と主治医に宣告されました。  途方にくれていると知人から○○○を勧められ、藁にもすがる思いで飲み始めま した。すると、食欲が回復し、体重も増え、1年経過した今でも元気でいます。  すべて○○○のおかげと感謝しています。 (△△市在住 53才女性)

解説:「手術もできず」とありますが抗がん剤や放射線治療をおこなっているかも しれません。また、ほかにも、思い違いや忘れている情報があるかもしれません。 そして、がんが消えたのかどうかは、画像検査で確認しなければ正確なことはいえ ませんので、この経験談からはわかりません。

 

[具体的事例 ②|権威者の意見]

『がん予防には、○○○がお勧め!』

体の中で発生する活性酸素は細胞のDNAを傷つけます。DNAが傷つくと正常 な細胞が、がん細胞に変化します。そこで、△△株式会社と□□大学は共同で 活性酸素を消去する健康食品○○○を研究開発しました。○○○は、ビタミンC の1000倍もの活性酸素消去能を持っています。がん予防に是非○○○を利用 してみて下さい。 (□□大学 医学博士 XX XX教授)

解説:一見すると、がん予防に効果がありそうにみえますが、「活性酸素消去」が 「がん予防」に効果があるのかどうかは、ヒト臨床試験で検証されなければわかり ません。大学教授や医学博士が述べているからといって仮説の信憑性が高まるわけ ではありません。

なお、具体的事例①および②の見出しにおいて、がんの治療や予防に効果あるか のごとく書かれていますが、効能の表示は医薬品にしか許可されておらず、明らか に法律違反です。このように、法律違反をしているような情報は、信じるべきでは ありません。

 

まとめ

テレビや新聞、インターネットなどを介して、非常に多くの情報が日々発信され ています。しかし、補完代替医療に関する情報は、残念ながら科学的検証がおこな われていないあやふやなものが多いのが現状です。  そこで、情報を取捨選択する方法、そのための知恵(情報リテラシー)を身に付 ける必要があります。その一つの手段として、科学的検証における研究方法(研究 デザイン)の見極めかたについて解説してきました。  このように、科学的根拠に基づいて治療方針を判断をすることは、補完代替医療 に限った話ではなく、現代西洋医学(通常医療)においても、取り入れられている 考え方です。これを「科学的根拠に基づいた医療」といいます。 今後、ヒト臨床試験による科学的根拠(エビデンス)が蓄積され、多くの不確か なことが補完代替医療の名のもと漫然と継続されることなく、順次、有効・無効、 有害・無害が明らかにされていくことが望まれます。

 

【参考文献】

「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」

厚生労働省がん研究助成金 「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班

独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費 「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班